2009年11月7日土曜日

【読書】世界の十大小説(下)

●世界の十大小説(下)
●w.s.モーム作、西川 正身 訳
●岩波文庫 349ページ
●初版 1958年

モームの『世界の十大小説』、後半は以下の5作品について記されている。

 


 □ボヴァリー夫人 :フローベール
 □白鯨 :メルヴィル
 □嵐が丘 :ブロンテ   
 □カラマーゾフの兄弟 :ドストエフスキー
 □戦争と平和 :トルストイ


「小説は楽しむためにあるもの」ということを繰り返し強調するモーム氏。

小説の長所より短所、欠陥について多くのページを割いて解説しています。

それは、作者の人間的な欠陥(不道徳や病気)が作品を生む大きな原動力になったということを言わんとしています。

曰く、「ちょうど同じメロンでも、堆肥の中で栽培したほうがうまいのができるように、さまざまな不道徳な特質がまぜ合わさっている土壌におかれた時が(小説が)一番よく成長するものだからであろう」

「ドストエフスキーを世界のもっともすぐれた小説家の一人にしているあの驚くべき独創性は、彼の中にある善ではなく、悪から生まれ出ているのである」

「ところで、これら作家たちがいずれも深い教養を身につけていなかったらしいのは、まことに不思議である」

といった感じである。

そして、結びにおいて以下の意見を述べることにより、彼らの不道徳や無教養について弁明している。

「これら数名の作家の作品が いつになっても魅力を失われないでいるのは、彼らが異常に力強い、きわめて特異な人たちであったからであるにほかならない」

モームは彼がこれらの作家たちと彼らの作品を心から愛し、敬愛していたことを感じる。

人間の欠陥というけれど、完璧な人間はいないわけで、欠陥とはいわないまでも誰しも短所や変わった性癖を持っているもの。

これらをひとつの個性とみなし、その個性の中でも一種異質なもと、創作意欲が伴って、名作誕生につながったと言える。

モーム氏の言うとおり、これら欠陥がなければ名作は世に生まれはしなかったのであろう。

十大小説はどれも面白く、100年以上を経た現代においても新鮮味に欠けるところがなく、いやそればかりか現代のどの小説と比べても優れているといってもよいくらいである。

「いまさら読むのは」、という否めない
思いがあるかもしれないけれど、人生のうちに一冊でも手にとってすばらしい読書体験をしてもらいたいという強い思いがこみ上げてくる。

モーム氏の『世界の十大小説』は、そのためのよい道案内を果たしてくれる。

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