2010年3月23日火曜日

【読書】人間の絆(上)(中)(下)

●人間の絆(上)(中)(下)
●W.S.モーム 著、行方 昭夫 訳
●岩波文庫 1313ページ
●初版 2001年

サマーセット・モームの代表作である『人間の絆』を読み終えた。

人を惹きつけて離さない素晴らしい小説だった。

訳が良いし、章立ても細かくて読みやすい。

なんといっても、モーム自身の自伝的な要素も含まれているのがとても興味深い。

足に生まれながらの障害をもつ青年フィリップが主人公だ。

モーム自身は吃音に悩んだそうだが、小説では分かりにくいので外的な障害をもちいたそうだ。

幼少期から青年期にかけての主人公の心の葛藤と、自らの人生を発見するにいたる壮大な物語だ。

この小説には何箇所か共感するところがあり、最終章では私自身の人生観と重なる部分もあり、大いに感動した。

共感する箇所のひとつは、ミルドレッドなる女性と主人公フィリップの愛と憎悪が交差する関係、自虐的な行動と心理的葛藤だった。

もうひとつは以下に引用した最終章の数行だった。主人公フィリップが苦悩と葛藤の末に到達した人生観のひとつだ。

「・・・正常など世にも稀であるのが分かった。誰だって、肉体的あるいは精神的に何らかの欠陥がある。これまで知り合った全ての人のことを考えてみ た。(世の中全体が病院のようなもので、わけもへちまもないところなのだ。)

すると病人の長い列が見える。体を病んでいる者、心の悩みを抱えている者、心臓や肺を患っている者もいれば、心の病として、意志薄弱、アルコール依存症の ものなどもいる。

この瞬間、フィリップは全ての人に聖なる共感を覚えた。

・・・唯一分別のある態度は、人間の善い部分は受け入れ、悪い部分は大目に見てやるということであろう。」

素晴らしい小説に出会えたことを神に感謝する気持ちでいっぱいだ。

小学4年生になる私の息子は、色弱という障害を持っていることが分かっている。

いずれフィリップと同じ悩みを持つことになるだろう。

いまは真剣に『ハリー・ポッター』を読んでいるが、時期が来たら、息子にこの小説を読ませようと思う。







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