2009年7月25日土曜日

【読書】アメリカ黒人演説集

●アメリカ黒人演説集 ~キング・マルコムX・モリスン他 ~
●岩波文庫、荒 このみ編訳、404ページ

この本を読書のリハビリのために購入したのが昨年末。オバマ大統領就任演説前に読み終える予定でしたが、約半分を読んだところで止まってしまい早くも半年が経過してしまいました。

先日、ある小説を1冊読み終えたことをきっかけに、読書を再開し、残りの半分を読み終えることが出来ました。

正直、とても重く密度の濃い書籍です。それゆえに最後のバラク・オバマ氏の演説を読み終えた時はなんともいえない開放感を覚えました。

今年1月のオバマ大統領の就任演説はまだ記憶に新しいところですが、この演説集には1829年のデイヴィッド・ウォーカー氏の演説に始まり、2005年のバラク・オバマ氏のノックス・カレッジ卒業式演説にいたる21人の男女黒人指導者の演説が綴られています。

そのどれもが賢明で柔和で冷静で機知に富むものです。マルコムXの「投票権か弾丸か」を除き過激な表現をもちいた演説はひとつもありません。

いかに蔑まされようとも黒人指導者たちは拳を握り締めて、歯をくいしばって演説を続けてきたのでしょう。その姿がまざまざと想像されます。

1776年の独立宣言においては「すべての人間は平等に造られている」ということを謳っています。また、キリスト教の精神においても人間は平等であるとされます。

福沢 諭吉のいうところの「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」の精神です。

しかし、アメリカはこれらの精神に反して、奴隷制度および黒人差別を容認してきました。

これは明らかな矛盾であり、この演説集の中でたびたび指摘されています。

そしてこの矛盾を正すべく、南北戦争終結後の1865年以降に3つの憲法修正条項 13条14条15条 で黒人奴隷制度は事実上廃止され、差別が撤廃されるはずでした。

しかし、現実には1960年代の公民権運動を経て公民権法が制定されてはじめて、法的、制度的な黒人差別が撤廃されることとなりました。つい50年前の話です。たったの50年です。

差別撤廃後、黒人はめまぐるしい速さで、そして様々な分野で才能を現してきました。今日、芸術、学問、スポーツ、音楽といったあらゆる文化において黒人抜きでは華やかさに欠けることでしょう。

そして、それら黒人の活躍のすべてを象徴するのが初の黒人系アメリカ人大統領の誕生と言っていいと思います。

オバマ氏の就任演説に心を打たれたのであれば、この演説集は彼の演説に更なる重みと価値を与える物となるでしょう。

黒人文化や人種問題に興味のあるすべての方にオススメしたい一冊です。


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